山スキー記録    熊谷トレッキング同人

‘黒部源流の大斜面を豪快に滑降す!’
黒部五郎岳&薬師岳山スキー報告
アルバム


山域山名:黒部五郎岳、薬師岳(岐阜県、富山県)
期  日:2006年5月2日(火)〜6日(土)
参 加 者:CL宮田 SL木下 浅見、南雲(計4名)
行動記録:                     
5/2 北本宮田邸(20:20)=熊谷南雲邸(21:00)=和佐府(25:00) テント泊
5/3(天候;快晴)和佐府1000m(5:25)→飛越トンネル1450m(7:30)→
 1643ピークを越えた鞍部1630m(8:20)→1918ピークを越えた鞍部1910m(10:00)→
 寺地山を越えた鞍部1965m(11:15/11:45)→避難小屋2000m(12:00)→2300m(13:00)→
 北ノ俣岳の肩2630m(14:25)〜太郎平小屋2330m(15:30)

「行動時間10時間のつらい登り…」

 今回の計画は2004年の夏に赤木沢・薬師岳に行った時からの憧れ「薬師岳のカールを滑る」を目標としている。夏には富山県・折立のキャンプ場が登山口となるがゴールデンウィークは除雪がなく、岐阜県側から林道を入り飛越トンネルから北ノ俣岳を経由して太郎平小屋に入らなければならない。しかも、今年は雪が多く、林道の除雪が遅れ、和佐府の集落から標高差450m/2時間の林道歩きが加わった。

 和佐府からの登り始めはザックにスキーを着けて歩く、途中から林道の雪がつながったのでシール登高に切り替える。入り口が板で塞がれている飛越トンネルに着いたのはちょうど2時間後だった。ここからはスキーアイゼンをつけて急斜面を登る。何度かのアップダウンをくり返し樹林帯の中を徐々に高度を上げて行く。寺地山は頂上直下を南東側から巻いて通過したが一部雪が割れていたので山頂通過の方が安全である(帰路はそうした)。

 樹林帯をぬけ、右側に避難小屋の屋根を見ると北ノ俣岳西尾根の大斜面が広がりしだいに傾斜を強めて行く。ここで浅見が極端にペースダウン、両足の太股が攣りそうで一歩一歩が大きく出せない。3人にはとてもついていけないが、ブーツ一個分30cmずつ小さくゆっくりと歩いた。標高差600mを2時間半かけてやっとの思いで北ノ俣岳の稜線にたどり着いた。今までの経験上、ハードな山行の1日目にバテたり、足が攣ったりすることが多い。つまりトレーニング不足で、体がハードワークに悲鳴を上げている。2日目以降は改善していくので、山行前に意識して太股の筋肉に負荷をかけてトレーニングしなければならない。わかっていてもこれがなかなか難しい。3人には長時間待たせてしまい申し訳ない。

 稜線からは黒部源流の山々が広がり、疲れを癒してくれる。実際は、今日はこれ以上登らないですむという安心感が一番である。太郎平小屋の赤い屋根が遥かに見えるが、シールをはがせばすぐに着くだろう。おだやかな稜線の斜面を快調に滑り、太郎山の緩い登りは担いで歩く。ここは意外と距離が長いのでシールをつけた方が速いだろう。最後は太郎山の斜面を30mほど滑って小屋に到着した。

 小屋は多くの登山者、山スキーヤー、テレマーカーで賑わっている。有峰ダムまで小屋の送迎バスがあるらしく、ちょっと悔しい。小屋は畳一枚に一人程度のスペースが確保され快適である。何より、乾燥室でシールやブーツを乾かせるのがうれしい。

5/4(天候;快晴)太郎平小屋2330m(7:00)→北ノ俣岳2662m(8:30)→中俣乗越(9:10)
 →2590m(10:15)→黒部五郎岳2839m(11:15/11:45)〜ウマ沢2190m
 〜赤木沢2070m(13:00)→赤木平2460m(14:10/14:45)〜薬師沢2070m(15:10)
 →太郎平小屋2330m(16:50)

「黒部五郎岳の大斜面を滑り、源流域を沢から尾根、沢へとつないでいく…」

 完全に高気圧に覆われて、快晴が約束された5月4日を行動時間の長い黒部五郎岳アタックに当て、午後から天気が崩れるかもしれない5月5日をやや時間に余裕のある薬師岳アタックに当てることにした。太郎山の斜面を登り、長い稜線をシールを効かせて進む。北ノ俣岳で小休止する。昨日バテバテで登った神岡新道を上からながめる。今日は快適な稜線歩きである。一昨年の夏、赤木沢遡行の後に通った道だが、スキーで歩く方がずっと楽である。これぞ春山の素晴らしさ。ここからシールをはがして、赤木岳は黒部側を一直線にトラバース、まだ少し硬い斜面をほんの数ターンで、あっさり中俣乗越に着いた。

 ここからは黒部五郎岳への登り、左手にウマ沢源頭の一枚バーンが広がる。下部は尾根筋を登り、傾斜が急になったころから左の広大なバーンを大きく斜めに登って黒部五郎岳の左肩にでる。ここからは反対側に五郎のカールが広がり、雪庇をまとった山頂を望むことができる。尾根筋を直登してきたら、この勇姿を見逃してしまったのでいいルート取りだった。山頂で大休止。山スキーヤー・スノーボーダー・テレマーカーで賑わう山頂。双六小屋の方から登ってきた人もいた。槍と穂高が近い。

 いよいよお楽しみのウマ沢滑降である。まるでスキー場のゲレンデのような広い斜面が一定の斜度でどこまでも続く。歓声を上げながら斜面に飛びこむ。大回りも小回りも思いのまま、まさに山スキー天国である。振り返ると真っ白な大斜面に自分たちのシュプール、ぬけるような青空に一本の飛行機雲。心に焼き付く風景だった。ウマ沢下部の樹林帯に入るとさすがに雪が重い。ここからのポイントはどこで赤木沢を渡り反対側の尾根に取り付くか、ルートファインディングが重要である。まず2190mでウマ沢左岸の尾根に取り付き、トラバースするように巻き下り赤木沢と反対側の尾根を偵察する。登りやすそうな場所を探して2070mで雪に埋まった赤木沢を渡り、尾根に取る付くとすぐに、少し下で赤木沢の雪が割れ滝が出ていることがわかった。夏には快適なナメ滝もこの時期は危険な落とし穴である。

 樹林の急登をぬけると緩やかな尾根を登り、赤木平を目指す。1時間10分の登りで赤木平。夏はハイマツに覆われて登山道はない、まわり中を黒部源流の山々に囲まれた楽園。しばし、露岩の上で至福の時間を味わう。ここからの下りは始め緩やかな尾根を下り、薬師岳の偉容を正面に見ながら、薬師沢左俣に向かって急な疎林を歓声を上げて滑り降りた。所々、流れがあらわれた薬師沢に降りると、後は太郎平小屋に向かって最後の登りとなる。夏道の右側の尾根をシールで登って、今日も10時間近い行動であったが充実感いっぱいで小屋にたどり着いた。


5/5(天候;快晴)太郎平小屋2330m(7:35)→薬師平2480m(8:20)→
 薬師岳山頂2926m(10:00/10:30)〜中央カール底2700m(10:50/昼食/11:35)→
 薬師岳山頂(12:05)→避難小屋2890m(12:30/12:45)〜薬師沢右俣2300m(13:10/13:30)→
 薬師平2480m(14:40/15:00)〜岩井谷沢底2110m(15:30)→太郎平小屋(16:10)

「薬師山頂から中央カールに飛び込み、頂稜から広大な薬師沢右俣に吸い込まれていく…」

 3日目も快晴、雲もほとんどない。今日は子供の日だが不良親父達は山の上にいた。昨夜はあまり冷え込まなかったようで、小屋の前の雪はクラストしていない。シールを付けたスキーを履き、本日の目標である薬師岳に向かって広い稜線を歩き出した。右手にはきのう滑った赤木平がよく見えている。いい斜面である。そのずっと奥には黒部五郎の大きな姿があり、あんな遠くまで行ったんだなあとスキーの機動力を改めて思い知る。

 薬師峠にシールを付けたまま降り、そこから薬師平に登り返す。ここ数日でつけられた滑降跡が固まって斜面は荒れていた。ギタギタになった雪面の上で黙々とシール登高を続ける。標高が上がるにつれ西からの風が強くなってきた。日差しは強いのだが、薬師岳山荘の辺りからはヤッケがないと寒いくらいである。そこから一登りで避難小屋のあるピークへ。とても小さな避難小屋は、屋根がなくなっており使える状態ではない。

 稜線上を山頂に向かって歩いていくと、右手の中央カール急斜面に滑り込むスキーヤー達がいる。「アッ転けた!」しかし体制を建て直して滑り降りていった。急斜面に刺激を求めるようになった病人には、中々魅力的なスロープである。山頂にはツボ足の団体さんがいたが、その他にすれ違う登山者は殆んどが山スキーヤーであった。北側に落ちる金作カールを覗き込むとこちらもスティープでいい斜面である。再度、薬師岳に来ることが有れば、今度はぜひこちらを滑ってみたい。山頂からも中央カールには入れるのだが、斜度がなくてつまらないので少し戻った所からドロップインした。出だしは40度強くらいあるが、雪質が良いので不安はない。カール底で待つメンバー達に向かい、快適にジャンプターンを繰り返していった。あっと言う間にカール底へ着いてしまう。わずか2〜3分の出来事であった。

 快適なカール底でコーヒーを飲みながら昼食を摂る。ここにはあまり風が入って来ないようだ。海抜2700mで、ぽかぽかと暖かい日差しを浴びながら寛ぐ。贅沢な一時である。登り返しは東南尾根ではなく、山頂に突き上げる尾根を使った。少し遠回りになるが、こちらの方が斜度が緩く楽であろう。この尾根でガイドツアーらしきテレマーク集団が遊んでいた。山頂からはシールを付けたままで避難小屋のあるピークへ向かう。

 ここでシールを外していよいよ本日のメインイベント、薬師沢右俣である。上から覗き込むと広大な斜面が遙か下まで続いている。標高差700メートル、日本屈指の大斜面である。歓声を上げながら滑り込んだ。快適なザラメで思うようにターンが決まり、グングンと高度を落としていく。沢が南に曲がると斜度が落ちて狭くなってくるが、この辺りからは日に当たった雪がグズグズに腐っていた。2200m辺りで薬師平から南に派生する尾根に取り付いた。薬師平に上がると小屋へ戻るルートである峠には降りずに、薬師平から東へ派生する尾根へ滑り込んだ。本日3本目の滑降である、病気ですね。

 沢底に降りてシールを付けていると、沢の下流から先ほどのテレマークの大パーティが上がってきた。彼らが付けた沢沿いのトレースを辿り小屋へ戻った時には、ジンワリと重い疲労感に全身が包まれていた。今日もいっぱい登り、いっぱい滑りました。

5/6(天候:晴れ)太郎平小屋2330m(7:15)→北ノ俣岳の肩2630m(8:20/8:40)〜
 寺地山1996m(9:30/9:50)〜飛越トンネル1450m(10:50)〜和佐府1000m(12:10)

「最後の北ノ俣岳西面も大斜面、満足感いっぱいの下山…」

 4日間の行程も今日で終わりである。もう下るだけなのでゆっくりと小屋を出発する。気温が上がって斜面が緩む事も多少は期待していた。北の俣岳への登りを黙々とこなし、山頂手前の肩に出る。天気はやや雲が多いが晴れと言って良い。4日間のあいだ良く持ってくれたものである。本当に幸運であった。シールを外しながら景色を堪能する。北から東に薬師岳、雲ノ平、水晶岳、鷲羽岳、三つ俣蓮華、そして黒部五郎岳、毎日のように我々の目を楽しませてくれた山々である。このスケールはやはり北アルプス、それも黒部源流域でなくては味わえない物である。この中を縦横にスキーで駆け抜けることが出来た幸運に感謝する。

 しかし、最後の大斜面がまだ残っている。北の俣西面の大斜面である。初日、寝不足でヘロヘロになって登った斜面であるから、気持ちよく滑らなくては元が取れない。気を引き締めて滑り込む。固い。ガガガガッとエッジが横滑りしていくのを必死に抑えなくてはならない。西面であるため、緩み始めるのはまだ先のようである。しかし、スピードは維持したままで一気に高度を下げていった。ある程度まで下ると雪も緩みだしてターンが楽になる。あっと言う間に大斜面は終了。

 寺地山までの狭い尾根は、トレースに導かれてスキーを履いたままで進んで行けた。寺地山手前で50メートルほどツボ足で登り返す。そこからは再び狭い樹間を尾根沿いに下って行き、途中もう一度ツボ足となった他は概ね快適に滑り降りる事が出来た。1586mピークは北側を巻くことでスキーを脱がずに済んだが、結構急なトラバースであるので状況によっては登り返した方が速いかもしれない。

 途中、ツボ足パーティーを抜いて飛越トンネルへ到着。ここからは、初日に苦労した林道を滑り降りていった。雪質が悪くあまり滑らないが、どうにか進んで行く。3日前に比べて雪は格段に減っているようだ。気温も高くかなり暑い。間もなく雪が切れたところで板を担ぎ、アスファルトの上を歩いて行った。数台の車がここまで入ってきているが、我々の翌日辺りに入山したようだ。程なく和佐府の集落に到着し、長い山行は終了となった。
                         (5/3,4 浅見記・5/5,6 木下記)